東京高等裁判所 平成2年(ラ)127号 決定
抗告人 石川温子
事件本人 石川孝
未成年者 石川一明 外1名
主文
一 原審判を取り消す。
二 事件本人の未成年者両名に対する管理権を喪失させる。
理由
第一 本件抗告の趣旨
主文同旨
第二 本件抗告の理由
別紙のとおり
第三 当裁判所の判断
一 破産法68条は、親権者が破産宣告を受けた場合には民法835条を準用すると規定している。そして、破産法が右のように破産宣告についてわざわざ親権者の管理権喪失に関する民法835条を準用していること及び破産宣告が民法上後見人(846条)、保佐人(847条)、後見監督人(852条)等の当然の欠格事由とされていることにかんがみると、親権者が破産宣告を受けたことは民法835条所定の「管理が失当であったことによってその子の財産を危うくした」かどうかを判断するまでもなく当然に管理権喪失の原因になるものと解するのが相当である。
二 これを本件についてみると、一件記録によれば、千葉地方裁判所が平成元年1月31日事件本人について破産宣告の決定をし、同決定は同年3月3日に確定したことが明らかである。そうすると、事件本人の未成年者両名に対する管理権喪失の宣言を求める抗告人の申立ては理由があり、右申立てを却下した原審判は不当であるから、これを取り消し、抗告人の右申立てを認容することとする。
三 よって、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 寺澤光子 裁判官 石井健吾 橋本昌純)
(別紙)
抗告理由
1 原審判は、民法835条について、「当該父又は母が現実に子の財産を危うくしたことを要するのであって、単に将来子の財産を危うくする心配があるというだけでは管理権の喪失宣告をすることはできないものと解するのが相当である。」として、本件申立てをいずれも却下した。
2 しかしながら、親権者が破産したときは、破産法68条1項後段により民法835条が準用されるところ、この場合には、「常に親権者としての子の財産管理権の喪失を宣告すべきであり、破産の宣告により子の財産を危うくするか否かを判断する必要がない(朝鮮高判昭10.2.8)ものとされる。」(長山義彦「家事事件の申立書式と手続(第4版)」329頁平成元年新日本法規)(斉藤秀夫他「注解破産法」249頁昭和58年青林書院新社)
3 ところで、本件においては、事件本人に対し破産の宣告があり、同宣告が確定したことは明白である。
よって、原審判は、前記朝鮮高等院の判例に反するものであって、取消しを免がれない。
4 なお、実質的にも、以下の事実により、事件本人が未成年者両名の財産を事実上危うくするおそれは現在化している。
即ち、
(1) 事件本人は、昭和50年以降現在に至るまで、申立人及び未成年者両名の生活費を負担したことは全くない。申立人は、事件本人の父母と同居しその世話をする傍ら、自ら高校の非常勤講師として働き、その収入と義父の援助により未成年者両名を扶養している。
(2) 事件本人は、これまで同人の父の財産をあてにして借入申入先に対して「父が死ねば莫大な遺産が入る」などと言って借財を重ねていたとのことである。このため、事件本人の債権者らは、申立人や事件本人の父に債務の返済を強く迫っており、これらの者の中には事件本人の父が死亡したときは申立人方に乗り込んで父の遺産から返済してもらう、廃除されたとしても未成年者の子の財産の管理権はあるはずだ、子が親の借金を支払うのは当然だ、との趣旨ことを言う者もある。
(3) さらには、事件本人のこれまでの言動からみて、事件本人が、未成年者両名について財産の管理権を有していることを相手方に告げて、従前と同様借財をしたり、未成年者両名に債務を負担させたりする可能性が十分あり、このようなことになると借入先にも多大な迷惑をかけることになる。